「農」

 先日、学識者とのお米の農業政策についての意見交換会があり、そこで感じたことや日頃からの調査等を今回は綴りたいと思います。(もともと、私は「農業」を「農」と「業」でわけて施策展開をしていくべきだという考えでいます。この部分はまたの機会としまして、今回は農業基本理念について)

 流れとしまして、現在、専業的に農家を生業にされている方と、土日や朝夜だけ行い、日中は勤めにでている兼業農家に別れ各問題の議論を行うことが多くあります。アメリカ、ドイツ、オランダ、オーストラリア等の先進国等では、農業が大規模化して単位面積や投下労働力に対する収穫量が高まっています。これは、日本でも同じです。但し、お米以外です。コメ部門以外の畜産や野菜等は専業農家中心ですが、コメ分野だけが兼業農家が主流になっているのが日本です。

 1920年前後に米騒動が起こり、米価下落をうけ政府が市場介入するようになり、その後、1942年に食糧管理法が成立しました。これにより、農家が生産したものを政府が全量集荷し、消費者側に配給するという仕組みをつくったのです。もともと、戦時中、貧しい食力を均等分配する為の法律が、食糧管理法の位置づけでした。しかし、高度成長期以降もこの制度は続き、農家から買う米価を引き上げて農家所得を補償するためのものになりました。そして、農業協同組合がこの制度を活用し米価の設定に介入するようになりました。

 資料等によると1960年位までは農家の方が勤め人より所得が多く裕福というデータが出ています。それが、経済復興による経済対策により、その後逆転をします。そこで、農業基本法が成立しています。
ここで、農業基本法の基本理念をみると、非常に先端をいく理にかなったものです。農家の規模拡大するために、農家戸数を減少させて残った農家の規模拡大をはかることで、コスト削減を行うと同時に所得を引き上げるというものです。この背景に1955年前後から都市化しつつある社会構成により、農家から勤め人になる流失現象が多く行ったため、農家が自ずと減少することで、農業の大規模化・合理化は進んでいくと踏んだからです。

 しかし、1964年東京五輪を挟んで、「均衡ある発展こそ国力の安定」を掲げ、新産業都市なるものが指定されるようになり、各地に均衡的にあらゆる産業が出始めます。このあたりから、農業分野に変化が起きてきている資料があります。それにより、農村地帯でありながらも企業に勤めることが可能になったのです。そこで、農業の兼業化が顕著になってきました。

 ここで、農協の動きです。農協は食糧管理法制度のもと、米農家の所得向上を名目に米価引き上げ活動をしました。米価が上がれば農協側も販売手数料等、米販売に関わる手数料収入が上がりますので、合理的な企業運営をしたという見方もできます。しかし、「農業」という枠でみるとどうでしょうか。米価が上がったことで兼業農家が増え、専業農家にコメ分野が移行しなかった現状もみてとれます。コスト削減と出荷量の向上に繋がる本来の農業基本法が機能せず、農家がコストを引き下げて、収益をあげる道が、実質的に意図的な米価の引き上げで、目的通りに結果にならなかったと分析できます。この機能がうまくいかず、他省庁の施策確認や他制度との調整、見直しをもっと強固にしてこなかったことで、農政自らが機能しなくなったともみてとれます。

 やはり、時の選挙だけでなく、「農業・農家」目線での施策展開をすることも必要になってきます。

 我々日本人にとってお米は必需品です。農業基本法の基本理念は減反政策でも歪められてしまったと思います。高く買って安く売る。という二重価格制度のため、食管会計等は大赤字になりました。そうなれば、打開策として消費者米価の高騰。それによる消費者のコメ消費から離れ、コメが余る。という悪循環です。食管会計赤字には税金負担、過剰米処理に数兆円。それに歯止めをうつべく減反政策。結局食糧管理制度は1995年に廃止になりました。ただし、減反政策は(生産調整目的に移行)現在も続いています。

 私や研究仲間も、兼業農家化とこの減反制度は、一枚岩のように関連しており、農業発展にマイナスに働いている可能性が高いと指摘しています。ただ、農協という企業?経営媒体を見た場合には、この仕組みは理にかなっており維持できるようになっていると思います。

 資料によると、農協という組織は、「農会」(農家への技術指導提供組織)と「産業組合」(農産物の販売や融資等)が、昭和恐慌を切り抜けるために、農林省が一代農政運動を行い、経済・信用を統括する「農業会」に統一されました。その後、食糧難の時代に政府が統制団体となり、危機を乗り切りました。この統制団体が解体されず、看板を塗り替えて「農協」になりました。見方によれば、官製統制団体とも言えます。

 もっと、掘り下げれば、農協は戦後GHQは銀行業務を切り離すよう模索していたようですが、農林省が金融兼務も考えていたため、政府がコメを買い上げ、代金を農家に支払う際に農協を通じて支払うという理由をつけGHQを説得させ、銀行業務を継続させたという歴史もあるようです。その後は、皆さんもご承知の、金融業、保険業、農業関連資材販売、ガソリンスタンド、葬祭業等生活に関するサービス提供を行う組織に変質していったといえます。いわば万能組織です。

 今後、この農協組織に対抗すべく、株式会会社の参入。という議論も大きくなっていくだろうと思いますが、私は、労働法がありきちんとコンプライアンスがある一般企業の参入では難しいと感じています。自然相手の農業です。時間が的確でない分野にどこまで参入できる企業がいるかは未知数であり、入っても黒字化は大変だと思います。ですので、企業が農家との連携を模索できるかで変わってくると見ています。

 話はそれましたが、米価低下問題にしても、今後消費税引き上げが起こる中で、消費者家計に影響を与えると、政府が市場介入して米価を高く維持してもどういう結果になるのかは、経済分析をすればわかると思います。現状、米価が下がっても、兼業農家の人たちは、影響を受けません。影響を受ける専業農家には、財政から直接支払いを交付するという方法や、農家が直接販売する努力を促す環境づくりや、本来の農業理念に基づいた、組織を自治体支援をしてもいいと思います。
 
 協同組合は、独占禁止法の適用除外を受けています。これが、独占禁止法を適用するために、現組織を一部株式化できれば、農産物価格は下がることが期待できます。また、今後のTPP参入になった場合、日本農業界が取り残されない為にも、準備が必要だと思います。
 
 農家に現在4000億の減反補助金が行われ、お米の制限を統制指示し、米価をあげて6000億の消費者負担を行う。という政策しかない。ということで本格的議論もされてない状況に疑問もあります。700%を超える関税で価格を釣り上げることが国益だ。という視点もまた疑問です。消費税の引き上げが逆進性を引き上げるというのであれば、これまでの農業政策自体、逆進性のようなものです。
 
 私は、あらゆる農業問題も、直接支払いをすれば、農家は今より困らず、消費者が利益を得ると思っています。利益だけに走るのではなく本来の目指すべき安定した農政を考えるのであれば、食料の安定供給に重きをおき、競争力を高める政策を実行していくことが今後大切だと思います。それにより、農業基本法の歪みを戻し、兼業農家と減反政策のあり方なども見えてくるものと感じています。
 
 農政も自立・自律をしなくてはなりません。農家目線で考えたときにそう感じ、意見交換会での議論を掘り起こし綴ってみました。
                       
                        若狭 清史