かなり久しぶりの更新になってしまいました。ご連絡をいただいた読者の皆様には申し訳なく思っています。
様々なことがおきたここ数カ月。また、気を引き締めて新たに進んでまいります。

「軽微」

最近、水産業に携わる方々との交流を多くさせていただいております。
一次的、二次的、三次的で違いがありますが、よく「TPPで日本の水産業への影響は?」と質問されることがあります。

私的に調査等した意見を述べれば、よく心配されている「国内に安い輸入魚が大幅に増えて、全体価格が暴落して、国内水産業界が衰退する。」ことは、無いと考えています。

結論から言えば、
①TPP参加でも水産物に関して、輸入はそれほど増えないし、それほど価格も安くならないと思います。要は生産者への不都合点、消費者にとっての好都合点も、ほとんどないのかなと思います。
②食の安全をどう担保していくかの議論に切り替えるべき。(特に養殖物の安全性等)

と、考えいつも答えています。

まず、その理由として、そもそも、水産物の関税は3.5%~7%程度です。既に低いのです。
日本の水産物の大本は輸出産業でした。ですから、海外から魚が入ってくるということは想定しなかったので、関税自体も低く設定されていました。
700%を超える分野もある農業とは、状況自体が違うのです。

農林水産業が一体としてTPPに関して論じられていますが、そこは分別して捉えていくべきだと思っています。
水産業に関して言えば、日本が外国から買う時に問題になるのは、関税ではなく為替です。円高なのか、円安なのか、円建て取引なのか、ドル建て取引なのかを注視することが大事です。2012年のUSドルは80円まで円高でした。07年は120円でしたので、USドル取引の魚は3割安く変えました。しかし、水産物の輸入はほとんど増えておりません。
今はまた、97円位にきましたが、07年と比べればまだまだ安く買えますが、輸入はほとんど増えていません。この状況でも関税をなくした途端に、国内水産業が暴落するほどの輸入魚が入ってきてくることは、想定上あり得ることは少ないと言えます。

よく、大打撃を受けるということを言われている識者や団体がいますが、そういった方々が試算として使うのに、農林省の括的経済連携に関する資料です。
(http://www.maff.go.jp/j/kokusai/renkei/fta_kanren/pdf/rinsui_hinmoku.pdf)

「関税を撤廃したときに国内産業がうける影響を積み上げていくと、4200億円になる」という資料です。そもそも、この資料は輸入先がTPP加盟国に限定されていません。ですので、この試算では「TPPの影響」とするのは妥当ではありません。

実際に、水産貿易に関わっている方々、企業、市場に調査をしたところ「TPPで安い魚が入ってくること自体少ないのでは。」と口々に言われていました。
その背景に、近年データをみていけば、世界的に魚価は値上がりを見せており、日本の水産物の輸入量が減少しています。世界規模での水産業界では水産物の競争が繰り広げられているのに、日本は購買力の低下からそもそもの競争から蚊帳の外状態なのだそうです。バブル期が来るなら、また別な見方もしなくてはなりません。しかし、現状の中では、世界の水産物が日本に集まり、とことん競争して利益をあげることまでは、市場的にも想定することは少ないと言えます。

また、今年3月に農林水産省はTPP加盟国に絞った影響試算結果を発表しました。
が、この資料をみても試算方法を問いたくなることだらけでもありました。
(*あくまでも今回は水産業に関することの意見です。下記ファイルの6ページ右欄に水産データ)
(http://www.cas.go.jp/jp/tpp/pdf/2013/3/130315_nourinsuisan-2.pdf)

先ほどの資料に関連した試算(平成22年11月に公表した全世界を対象に関税撤廃した試算4200億円影響あり)では、農林水産物の生産減少額を4.5兆円程度と試算してます。これと同じ方法で、TPP交渉参加11ヶ国に対して関税を撤廃した場合の農林水産物の生産減少額は、3.4兆円程度となるようです。

先ほどの資料と上記の資料を見ていくと、サバの「試算の考え方」部分は、前回から「ノルウェー」の文字がなくなりました。ノルウェーはTPPとは直接的関係性は無い為。そして、加盟国の輸入実績がない品目については、ゼロになりました。同時に、輸入実績が少しでもあれば、一律9割にもなりました。
これは、すごい論理です。そもそも低い関税を無くせば、国内シェアが3~6割は大打撃をうけ、水産物のシェアの9割がTPP加盟国になる。という論理でデータを作成しています。この論理を結論付ければ「TPP参加は国内水産業は衰退する。」は成り立ちますが、そもそもの試算方法がおかしいと指摘できます。

また、サバのTPPによる生産量減少率が30%になっています。
これは、約15万㌧程度と想定できます。加盟国で輸入実績のあるのはカナダのみです。しかも、日本の全体のサバ輸入量の1%にも満ちていません。カナダの2012年のサバ輸出量は2000㌧に届きません。漁業規模が小さいのです。

そして、漁業専門識者も首をかしげるイワシです。
イワシの欄をみれば、230億円の生産減少となっています。過去10年間の生産金額が80億円程度しかないのに、どうしたら年でそれだけの減少数値がでてくるのか疑問です。
そもそも現状マイワシの輸入実績は3.6億円です。ここ10年ほとんど輸入されてこなかったマイワシが今後、突如大幅に入ってくるという根拠とデータが無いのは、解釈に難しいところです。

そもそも、相手国の産業状況、資源状態を把握も、考慮もせずに数字だけを描いただけでは、担当官の思惑なのか、その裏の既得団体の圧力、族議員の喝なのかわかりませんが、あまりにもお粗末なのかなと思っています。

こういったことを全体的にふまえれば、質問される「水産業がTPPによってうける影響」は軽微だと思います。
軽微ということですので、影響がないわけではありません。
食の安全の部分です。国内許可がされていない薬物使用をして養殖している水産物も見受けられます。この部分で利用許可が下りれば輸入は禁じられないのがTPPです。
そのことを想定して、消費者の食の安全をどのように国内対策をしていくのかの議論を、メインに私は勧めていくべきだと思います。
打撃を受ける。という論点はもう過ぎています。この部分をいち早くメイン部にもっていけるかで、農林も含めてソフト対策だと思います。

上記のようなことを、水産業界の方々と最近接する機会が多い中でお答えをしていることを今回のブログとさせていただきます。

                        若狹 清史