今年も明日で終わります。
今年は私の右腕だった同志が31歳で急死。なんとも言えない無念の思いです。
色々な事が起こる人生。彼の思いを胸にこれからも一緒に恥じることなく歩んでいきたいと思う年の瀬です。
皆さんも一日を一瞬を素敵に過ごしてください。本年もお世話になりました。

「経済の先」

シンクタンク研究員や大学教員の方々と定期的な勉強会を続けてきていますが、先般行われたディスカッションで話題にあがった今年の経済政策に対して、発言した内容を今回のブログに要約して綴りたいと思います。

経済政策・・・いつの時代も必ずついてまわる問題です。様々な視点で物事をみれば幾通りもの方法も出てきます。そんな中でどの道を選ぶかは時の政治判断です。そして結果はやってみないとわからない面も多くあります。

今の豊かさを知ってしまった日本には先進諸国並の経済成長が必要です。その上で、財政状況を考慮しつつも適切に分配することは、拡大した経済のパイをどうコントロールするかが課題であり、同時に社会そのものを安定化させるとともに、市場のメカニズムそのものをも有効的に流動させることが条件であることにも留意すべきです。また都市と地方の格差の是正の折り合い点をどこにもっていくのか、世代間格差の是正、年金や医療・介護が抱える課題にどう対処していくのか。これらは成長によって改善できる要素もありますが、それだけでは解決が困難な分野も当然存在します。

「アベノミクスの先」の問題にいかに早期にフェーズを移すことができるかが今後の鍵だと思います。それを見いだせる政策になっているのかどうかが官僚や識者にも課せられている課題と思います。

第二次安倍政権が成立して1年が経過しました。そもそもアベノミクスは「大胆な金融政策」、「機動的な財政政策」、「民間投資を喚起する成長戦略」の3つからなる政策です。ケインズのいう「準好況状態」を維持するために安定化政策を作成したのが今回の、金融政策と財政政策です。成長戦略は成長政策として効率的かつ無駄のない形で生産を稼働できるようにし、全体の底上げを図ろうとしています。

そもそもアベノミクスの第一の矢は、昨年の衆院選を「デフレ脱却のための金融政策」を最大の争点として戦い勝ち、こうした動きに市場は大いに反応し、大胆な金融緩和策の実現の予感を彷彿させ、「2%の物価安定目標」を含む政府・日銀の共同声明(1月)、デフレ脱却に積極的な日銀新体制の成立・始動(3月)、新体制の下での量的・質的緩和策の公表・実行(4月)という形で具体化していきました。

また、第二の矢については2012年度補正予算として「日本経済再生に向けた緊急経済対策」(2月成立)、2013年度予算(5月成立)が決まりました。

第三の矢については日本経済再生本部や産業競争力会議で議論が進められて、新たな成長戦略「日本再興戦略」が閣議決定(6月14日)され、秋の臨時国会で関連法案の一部が成立しましたし、今後成長戦略の具体化と追加的な成長戦略の策定が行われる見込みでもあります。

こうみると経済政策には経済安定化政策、成長政策以外にも、社会の公平度を高めるために税や社会保障といった手段を講じる「所得再分配政策」もありますが、アベノミクスは経済安定化政策と成長政策の二つを駆使することでデフレと経済停滞から脱すことを意図した経済成長に特化した政策パッケージであるともいます。

三本の矢の中で、一番成果が出始めているのが第一の矢の「大胆な金融政策」だと分析できます。公表・実行された量的・質的緩和策では、消費者物価の前年比上昇率2%の「物価安定の目標」を、2年程度で実現すべく、長期国債、ETF、J-REIT、社債等の買取りを通じてマネタリーベース(2012年末実績138兆円)を2013年末に200兆円、2014年末に270兆円まで拡大するとしています。マネタリーベースやバランスシートの見通しと実際の動向を比較しても日銀の見通し通りに緩和されていることもわかります。4月時点では、大胆な金融政策を行っても実態経済に影響しないという指摘も多く耳にしましたが、第二の矢の効果もあって実質GDP成長率は、2012年10-12月期の0.6%から2013年1-3月期には4.5%と4-6月期3.6%、7-9月期1.1%と回復が進みました。
実質GDPが回復することは、デフレギャップの減少の実現(2013年7-9月期には17兆から8兆円まで減少)、そして完全失業率も0.3ポイント減などもあり、マクロでみた雇用も改善が進んだことがわかります。また銀行貸出の伸び率も2.2%という高い数字もだしています。この銀行貸出は大企業向け、中小企業向け、中堅企業向けと時間の経過とともに裾野を広げていますので、着実に動き出していることも伺えます。

しかし、2014年には消費税増税されます。この増税ショックをどう対処していくのかをにらみながら、さらなる政策の強化を図ることが必要になります。

日本地域科学総合研究所によると、今年度の実質GDP成長率の見通しは0.8%、とくに消費税増税が始まる2014年4-6月期の実質GDP成長率はマイナス4.9%と急落の見込み数値もあります。黒田総裁もその懸念は持たれているようで、「消費税増税に伴う駆け込みと反動減の動向は注視する必要があるものの、駆け込みと反動減は相殺されるため、むしろ重要なのは消費税負担が増えたことによる(実質所得減少を通じた)個人消費への影響がどの程度あるかだとし、さらに多くの既存研究では実質所得減少を通じた個人消費への悪影響はそれほど大きくない」としています。

こういった発言を考慮すると、追加緩和を行う時期は、消費税増税を行った後の早期のタイミング、かつ日銀が想定する潜在成長率を上回る成長が続き、デフレギャップが次第に縮小するという現在のシナリオが崩れたと判断した場合ということになります。一方で日銀が現在描いているシナリオが崩れ、景気の腰折れが鮮明だという判断が早期になされるのであれば、追加緩和の決断はもっとずっと早いと考えられます。そもそも金融政策が実体経済に効果を及ぼすには、1年半くらいかかると分析されます。ですので、追加緩和に個人消費や住宅投資の落ち込みをピンポイントで抑制する効果を期待するのは難しいわけです。しかし、予想インフレ率や株価・為替レートの悪化への対抗策としては成果をだします。

私は単に緩和額を増やすのではなく、成果や課題を踏まえて首相と日銀総裁との共同声明の内容に修正を加えた方が得策だと思います。具体的には、政府が日銀法改正を行うことを明記し、雇用問題を日銀の政策目標として新たに追加をし、共同声明は日銀法に紐付けされた法的根拠を持つものとすることといった修正ができるか否かが、今後の経済政策に大きな意味があると思います。

次に、第二の矢の「機動的な財政政策」です。これについては、残念な内容にとどまっていると思います。確かに緊急経済体育を早期に打ち出したことは今までにないスピード感がありますが、財務省主導で進められた消費税増税の可決は、大きな枠組みでの変化にはならず、官僚のための対策にしかならない懸念は十分残されています。

そもそも、国の保有資産の見直しすらせず、余剰金の存在、社会保障費との関連等も矛盾が多く、また増税を決めたあとで増税の悪影響抑制のための5.5兆円対策という矛盾。経済対策が必要というほど消費税増税の悪影響を懸念するのならば、悪影響を懸念しない増税幅での消費税増税を行うか、消費税増税を行っても問題がない段階まで日本経済が回復するまで増税を先送りするのが普通なのではないでしょうか。政策論議を徹底的に行わなかった点は非常に第二の矢としては成果以前に課題を残す形になりました。

さらに言えば、経済対策そのものにも問題があります。
まずは、短期的な景気刺激効果が弱いことです。景気への即効性の高い公共事業費をふやせば実質GDPは上昇します。実際に2013年度の実質GDPを0.8%程度押し上げたことで日本経済に影響したと考えられます。しかし、どこまで公共事業費を維持するのか、また今 回の対策では5.5兆円から3兆円に一気に減らしているが、これでは実質GDPは半減するでしょうし、一瞬上げてまた下げるでは、還流しないことはわかっています。

次に消費税増税の影響が大きい中低所得者層への対策が不十分だということです。確かに消費税の負担額は消費額の多い高所得世帯が大きくなりますが、家計負担率は低所得世帯ほど高まるという逆進性が認められています。この負担率の平均値を上回るのは年収700万円未満の世帯です。これに対し、政府も簡素な給付措置を行う予定のようですが、これによる家計負担率の改善は年収200万円未満世帯に限定され、負担率平均よりも影響が深刻な200万円以上700万円未満の世帯負担率はほとんど改善しません。これでは、なんの為の増税なのかが見えてきません。

2014年度予算は95兆8,823億円。これに補正予算を考慮した数字で考えれば、財政規模は予算95兆8,823億円に消費税増税への対応策として講じられた2013年度補正予算5兆4,654億円を加えた101兆3,477億円になります。因みに2013年度の財政規模は、当初予算92兆6,115億円に2012年度補正予算13兆1,054億円を加えた105兆7169億円でした。
これらをみて考えると、消費税率の引き上げで見込まれる負担額(1%の消費税率引き上げで見込まれる税収を2.7兆円として3%分)を8兆1,000億円とすると、105兆7169億円-101兆3,477億円+8兆1000億円=12兆4,692億円が来年度に見込まれる財政緊縮の度合いになります。これは名目GDP比で2.6%の財政緊縮になる可能性をさしています。これでは、第二の矢は厳しい現実が待ち受けていると指摘できます。これを指摘する識者は多くいます。

最後は第三の矢です。「民間投資を喚起する成長戦略」についてです。これは長期プランとして継続していけるかが鍵だと思います。同時に利害重視(特定企業や既得団体優遇)ではなく、市場を重視することです。お上追従からの脱却でありルールや枠組みを重視する政策運営を長期的に行えるかが大きなポイントになると思います。あくまでも「手段」としてレジームを開くことです。従来の特定産業・企業・団体への補助金ではなく、広く恩恵が行き渡るルール、そして、競争政策への強化等が必要になってきます。また、規制緩和と対外政策を成長戦略として捉えて着実に実行が必要です。

日本産業再興プランは産業基盤の強化を強く出していますが、設備投資を拡大させ、競争力強化をするならば、法人税減税や事業設立のための手続きの簡素化が必須です。また戦略市場創造プランでは、医療・電力・再エネ・インフラ整備・農業・観光振興といった産業が対象となっていましたが、その中でも医療・電力・新エネ・農業については規制緩和を徹底することがまず何よりも必要に思います。従来のように、特定の団体、企業、産業へ利益の温床になるのであれば元も子もありません。国際展開戦略についても、経済連携協定の推進にもギアを上げる必要もあります。

上記のように綴ってきましたが、変化を起こした経済政策の年だった2013年。来年は「その先」にフェーズを移せるかが、この経済政策が功を奏すか否かだと思います。
そんなことを感じ、議論をした内容を要約させてもらいました。
来年もよろしくお願い申し上げます。
                           若狹 清史